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「教団X」を読んだので正直な感想を伝える【書評・レビュー】

Books Books-書評

みなさんこんにちは、Ichiです。
今回は「教団X」について読了しましたので、思ったことを書いていきます。

小説のおすすめに関して

随分と気になっていた「教団X」だが、出会いはふとテレビで見ていたアメトークの読書芸人の放送回で、2人の芸人さんが本書をおすすめとして紹介していたことに始まる。

おすすめというのは最近では随分便利なものとして重宝される傾向にある。単純にモノが多いという理由もあって、多くの人が「どれが本当に良いものなのか?」と迷っているところに一筋の光を投げかける。おすすめをする人がその分野で信頼に足る人物だとすれば尚更にその光に導かれる人は多いだろう。

特に「小説」という分野においてはおすすめの効果は凄まじい

実用書や専門書に関しては、本屋でパラパラと目次を読めば、その本の有用性や自分が求めているモノなのかどうかという所のある程度の判断がつく。そしてその本がおすすめされているのであれば、背中を押される感覚で購入を決意するだろう。

だが、小説についてはネタバレになるのでパラパラは読めない。そしてパラパラ読んだとしても物語としての評価はできない。なので、著者・題名・読んだ人物の感想を盲信して買うしかない。結果としておすすめを盲信する確率が高いのである。

だから、小説の感想や書評、そしておすすめなのか否かについては少し慎重に書く必要があると思っている。予告編の方が面白い映画みたいに、読者を釣るわけにはいかない。

教団Xのあらすじについて

本書は576ページもある長編の小説である。私は書籍をカフェに持って行ったりしたけれど、非常に分厚くて目立つので、持ち運ぶのはおすすめはできない。出先で読むならKindle版がいいと思う。

話の軸となるのは、毛色の異なる2つの団体とその周囲の人物。1つの団体は、教祖の松尾が率いるいい加減な宗教団体。正確に言えば宗教団体ではなく、自然と集まって話を聞くようなただの集まりだと言う。もう1つの団体は、沢渡という教祖が率いるカルト宗教団体「教団X」だ。

主人公の楢崎が付き合っていた女性である立花が突如目の前から消えたことを不審に思い、たどり着いたのが松尾の率いる団体だった。怪しい宗教団体だと思っていたが、妙にポップなキャラクターの人達が集まり、教祖との関係性もかなりフランクである。

その団体の人物たちによると、立花がこの団体にいたことは事実だが、本当は「教団X」の教徒で、この団体を詐欺に引っ掛けてどこかに身を消したと言う。

団体に不信感を持っていた楢崎だが、録画された松尾の話を聞く中で、不思議な感覚を得ていく。実際に松尾に会う機会を得ようとしたその間際に「教団X」からの使者が楢崎を導く。楢崎は危険だと分かっているにも関わらず、自ら教団Xへと足を運ぶのだが...。

メタ視点的な感想

まず物語としての感想だけれど、長い割にストーリー性が薄いというのが正直な感想。本作はそれぞれのキャラクターごとに視点が変わって行って、どんな思いでその行動を取るのかという裏が読める小説になっている。

だが、あくまで基本的に時間軸は進んでいって、同じ時刻に複数の人間の視点から物語を眺めることは無い。監視カメラの映像を1つのモニターしかない部屋で、次々に切り替えていくような感じをイメージしてもらえば分かりやすいかもしれない。

それぞれが様々な事を思うので、分量が多くなるのは理解できるのだが、とにかく1人が喋り出したら、まー止まらない。ミュージカルで再現しようものなら誰もオーディションを受けたがらないレベルでセリフが長い。しかも特定の人物に限らず、結構な頻度で話が長い奴が登場してくる。

このセリフにかなりの分量を持って行かれているので、厚い本なのに、ストーリー性は薄く感じてしまう。私がミステリーを期待して読み始めてしまった影響もあるかもしれないが、ストーリー自体は特筆して面白いとは言えない展開だろう。端的に言うのであれば、カルト宗教である教団Xの内部分裂とねじれた自他認識の話である。

恐らくこの教団Xを面白いと称賛する人は、この自他認識の話が気に入っているのではないだろうか。登場人物のほとんどは過去の自分の生い立ちの何処かにコンプレックスを抱いていて、自分がその生い立ちに関してどういう風に思っているのかというアツい自分語りが入る。

その自己認識に対して、各教祖が唱える考え方、つまり他人の認識が入り込む感覚の描写が良いのかもしれないが、私としては特に面白くなかったし、むしろつらい気持ちになった。精神科医が病むという構図に似ているのかもしれないが、物語の中の多くのメンヘラにあてられて気分が若干へこむのである。

加えて、この長い話は自分語りに留まらずに、科学的な話政治的な話をこれでもかと盛り込んでくる。これで完全に疲弊した。

科学的な話と政治的な話

科学的な話の主なトピックは「量子論」だ。原子とか分子とかそういった話を人間の生死に絡めて、運命に絡めてそれはたいそう長くお話になる。この部分は確かに面白い話だ。私が科学に興味があるのもあるが、実に現代の宗教の考えらしく、物語に深みというか現実味を持たせる役割を持たせていると思う。

ただ、気になるのは政治の話だ。

この物語自体が、かなり綿密にこの現代日本を舞台として描かれている。歴史や日本の体制なんかもかなり意識されている。その中で物語の一部のキャラクターたちが政治について語るのである。これもまた例に漏れず長々と。

別に物語に必要があるのであれば、政治の話も構わない。それに元から政治を解こうとしてそういう背景のある小説なら構わないし、著者の政治的な考えがモロに反映している名作もあるだろう。だが本書でのキャラクターが発する政治に関しての発言は、かなり物語から浮いている印象がある。

それまではあまり詳細に描かれていなく、キャラクターの人生背景すら分からない中でいきなりつらつらと政治的な発言を繰り返す。著者の心の中の政治的な姿勢がキャラクターの声を借りて語っているようにしか思えずに何とも嫌な気分になった。

読み終わって、他の方の書評をざっと眺めると「性表現が多くてそこまで書かなくてもいいと思った」みたいなことを述べていることが多い。確かに性表現は多いが、それは教団の掲げる理念を読者にすりこむ為にも必要な記述ではないかと思う。個人的には別に嫌悪するほどの描写と描写量ではないと思う。

まとめ

私の感想としては、結構批判的な書き方をしてしまったが、この分厚い本をかなり短期間で読ませられたのも事実である。キャラクターや状況の書き味は非常になめらかで、すいすいと読めてしまう。

教祖の生い立ちや話しも面白く、自分の中に色々な考えが入ってくる小説である。人間の色々な考えや思いを受けながら物語を読みたいという方にはおすすめできる。ただ、人を選ぶ小説だということは間違いないだろう。

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